研究者紹介
芝 陽子 Ph.D. / 博士(理学)
子供の頃からなぜ自分は生きているのだろう、という哲学に興味のある人間でした。理論を構築したりするのは好きでしたが、理論は実験などで実証するべきだと思い、大学は生命科学という分野を選んで進学しました。生命とは何かという疑問に実験で答えることのできる学問だったからです。
大学ではThe Cell(細胞の分子生物学)という教科書を読み、素晴らしいと思いました。学部の時はどこまで内容を理解していたのか自信はないのですが、それでも色々な疑問がどんどん解かれていくような気がして、この教科書を読むことがとても好きだったのです。
研究室は哺乳動物細胞を用いた細胞内輸送をやっている研究室を選びました。The cellと同じように分子機構の解明をやれるということ、哺乳動物細胞を用いているので自分自身に近いということ、そして細胞の蛍光画像がとてもきれいだったからでした。
大学院では、細胞内輸送の基礎を学びました。この頃はまだ積荷はコートタンパク質に結合するため選別されるという定説に従っていました。しかし実験があまりうまくいかなかったことや、こんな短い"選別"モチーフでそもそも輸送経路が特異的に決められるのかと疑問を持っていました。この頃から、GTPの加水分解が積荷の選別を行っているのではないかという報告がいくつかあり、それらの論文に興味を持ち始めました。
ドクター取得後、ポスドクとしてフランスのキュリー研究所で働きました。輸送時にGTPの加水分解を行うArfGAPの研究をやっていいと許可をいただき、ArfGAPの一つAGAP2が輸送に促進的に機能することを突き止めました (Shiba et al, JCS, Jul 15;123(Pt 14):2381-9, 2010)。GTPの加水分解を仲介する酵素ArfGAPは輸送に阻害的に機能するというのが定説だったので、それと真逆の結果を得た時には、自分の考えが合っているのではないかと嬉しかったものです。
日本に帰国するか迷いましたが、どうしてもArfGAPが本当に積荷の選別に関与するのか知りたかったので、ArfGAPの研究で有名なPaul Randazzo博士の研究室に移動する機会を得て、もう一度ポスドクをやることにしました。アメリカの国立衛生研究所(NIH)、国立ガン研究所(NCI)に移動してArfGAPの研究を行いました。実はArfの研究の世界では、ArfGAPがGTPの加水分解により、輸送に阻害的に機能するのか、積荷の選別を行って輸送に促進的に機能するのか、大きな議論が巻き起こっていました。研究者たちはお互いに自分の意見を譲らず、どちらだかわからなかったのです。PaulはArfGAPは積荷の選別に効いて促進的に機能するはずだという意見で、私と同じ意見でした。
私はPaulの研究室でArfGAPの中でも最も基本的なArfGAP1の研究を行い、ArfGAP1がゴルジ体における積荷の出荷審査に関与するのでないかというモデルを構築しました (Shiba et al, Cell Logist. 2011 Jul-Dec;1(4):139-154, Shiba Y, Randazzo PA. Histol Histopathol. Sep;27(9):1143-53, 2012)。このモデルについてアメリカのFASEB summer meetingでも口頭発表を行っています(Arf family G proteins, FASEB summer meeting, Pheonix, Arizona, USA, 2010)。さらにポストゴルジでもArfGAPが同様に積荷の選別を行っているのか調べ、ArfGAP3を発見し、ポストゴルジでもArfGAP1の出荷審査のモデルが応用できることを示しました(Shiba et al, Curr Biol, Oct 7;23(19):1945-51, 2013)。
日本帰国後、特任助教として奈良先端科学技術大学院大学でERストレスセンサーIRE1αのインスリン分泌における機能を研究しました (Sato H, Shiba Y, Tsuchiya Y, Saito M, Kohno K.Cell Struct Funct. 2017 May 3;42(1):61-70) 。 ERストレスというのは初めての分野でしたが、異分野の研究というのはやってみると面白いものです。インスリンの分泌について学びました。
岩手大学には准教授として赴任し、引き続きArfGAPの研究を行っています。積荷としては、通常の受容体ではなく、大きな凝集体を作る止血因子vWFや細胞外小胞の4回膜タンパク質CD63、無機物である磁性ナノ粒子を用いて研究を行っています。これらの積荷はArfGAP1やArfGAP3の積荷とは全く異なるのですが、それでもArfGAPが見つかってくるので、選別機構として、全く違った機構で積荷を選別していると考えられます。それぞれのArfGAPがどのように正しい積荷と正しくない積荷を選別するのか、その秘密を解明したいと思っています。
海外経験が長いため、生命コースでは国際関係の委員を担当しています。
研究室に興味の有る方はお気軽にご相談ください。研究室見学や相談は随時受け付けています。また海外留学等もお気軽にご相談ください。
略歴
筑波大学大学院生物科学研究科修了 | 博士(理学)取得 |
京都大学薬学研究科 | 特別研究員 |
仏キュリー研究所 (Department of Subcellular Structure and Cellular Dynamics) | 研究員 |
米国立衛生研究所(NIH),国立ガン研究所(NCI) | 研究員 |
奈良先端科学技術大学院大学、バイオサイエンス研究科 | 特任助教 |
岩手大学理工学部 化学・生命理工学科 生命コース/先端理工特別プログラム | 准教授 |
授業
- 生化学(生命・化学コース 1年後期)
- 分子細胞生物学III(生命コース 2年後期)
- 細胞生物学特論(総合科学研究科理工学専攻、大学院科目 前期)
- 地域グローバル課題演習(先端理工特別プログラム用 全学教養科目 1年後期)
* その他、オムニバス科目やマテリアルコースの特別講義I、先端理工のコアタイムなどを担当しています。
連絡先
学部; 岩手大学理工学部化学・生命理工学科生命コース/先端理工特別プログラム
大学院; 岩手大学大学院総合科学研究科理工学専攻生命科学コース
〒020-0066 岩手県盛岡市上田3-18-33
地域協創推進棟(旧教育2号館)教員居室 413号室
学生居室 地域協創推進棟402
研究室 地域協創推進棟401
shibay$iwate-u.ac.jp
($を@に変えてください)
研究室の写真
台湾の嘉義大学とのDDSグループシンポジウム